支那の売笑
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二、支那売笑史

妓女は社交に必要

欧米各国や日本などは、大抵一夫一妻の制度である。而して妻は常識に富み、社交にも慣れ、往く所夫婦連れが多い。天涯地角に在っても、所謂夫娼婦随の家庭的な団楽がある。それと花柳界に出入して汚行があれば攻撃を受け、社会から排斥せられる。従って妓女の必要は少なくなからねばならぬ解である。然るに日本は明治維新の際、遊女屋に出入せる連中が廟堂に立つに及び、遊女屋と摺紳と密接な関係を結ぶに至りこれが馴致して現今に及び、国家の政治が待合で議せられ、一国を引廻す政治家、高位高官が醜窟に出入する。待合入り茶屋遊びは、各界を通ずる尋常の茶飯事となって、地位も、身分も、年も、恰好も打忘れ、泪泪として此濁流に棹さす状態にある。

日本に於てすら斯くの如しである。況んや支那は、女子の教育を受けたる者稀にして、常識に乏しく、交際に暗く、加ふるに一部の婦人は纒足にて歩行の自由を欠ぎ、已むを得ず深窓の中に蟄居する、茲に於て社交的婦人を他に求むるといふ結果となるのである。其他家庭に於ける性的生活の欠陥にも関係がある。(茶室と下処の部参照)そこで支那では、男が花街に出入することを以て、何等耻として居らぬ、故に花街の繁昌は当然のことになって来る、而して妓女と恋愛関係を生ずるに至れば、社会は之を非艱せず、却って名士美人を以て許す、それのみならず、一場の風流韻事として之を称揚するやうな傾きがある。

二、支那売笑史

  1. 支那売笑婦の起原
    1. 三皇時代の洪涯妓
    2. 斉の管仲と女閭
    3. 世界最初の遊廓
    4. 瓦舎に就て
  2. 妓女の前身は宮中の女楽
    1. 北里の舞と靡靡の楽
    2. 王者房中の楽
  3. 世界に於ける芸妓の元祖
    1. アゼンスのコンパニオン
    2. 日本の遊女と女舞
  4. 支那最初の公娼制
    1. 夜合の資を微す
  5. 妓女を政治に利用
    1. 魯斉に女楽を贈る
    2. 魯の定公女楽に迷ふ
  6. 妓女孔子を走す
    1. 斉人歸女楽賦
    2. 孔子五章の剌
  7. 周代と売笑婦
    1. 晋侯政を乱す
    2. 戎王と女楽の害
    3. 諸侯の淫乱天下を毒す
  8. 秦の始皇は妓女の子
    1. 呂不韋と邯鄲の美姫
  9. 漢の武帝営妓を設く
    1. 咲誇った陣中の花
    2. 妓女と軍士の風流事
    3. 武帝の李大人は妓女出身
  10. 宮中の遊廓と天子の素見
    1. 斉の宝卷の淫行
    2. 玉樹後庭花の曲
    3. 潘金蓮い故事
  11. 隋煬帝の風漉と妓女
    1. 西苑と十六院
    2. 御女車と殿脚女
  12. 唐代の遊廓平康里
    1. 長安の風流薮沢
  13. 教坊と宜春院
    1. 官妓収締の官署
  14. 雅楽寮と妓生の伝来
  15. 後梁から宋の滅亡まで
    1. 娼婦が産んだ皇子
    2. 北宋の徽宗と先賞元宵の故事
    3. 南宋理宗の淫行
  16. 北京に於ける元代の公娼
    1. マルコポロの紀行
    2. 二万五千の公娼
    3. 元の順帝の醜行
  17. 明代の教戸と楽戸
  18. 不夜宮と長春苑
    1. 花柳街と胡同庵
    2. 男妓相公と妓女
    3. 北京に於ては遊廓の元祖
    4. 宮中に妓館を移す
  19. 東院の瑟に西院の琵琶
  20. 燈市燕飲の光景
    1. 明范景文の燈市の詩
  21. 乾隆帝と八大胡同
    1. 歌妓名優を集む
    2. 北方劇界の大改革
    3. 売肉専門の遊女屋
  22. 俳優と妓女の反目
    1. 男女妓館の区別
    2. 芸妓と俳優との情交
  23. 民国と公娼の制度
  24. 官妓と詩客文人
    1. 南朝の金粉北地の烟脂
    2. 才女名妓の出現
  25. 売肉専門に堕落す
    1. 聴妓と観妓と宿娼
    2. 妓女に対する観念
  26. 玉の輿を狙ふ支那娘
    1. 清末民初と花街
    2. 明治維新に彷彿
  27. 妓女は社交に必要
    1. 支那の婦人と妓女
  28. 官僚と芸者の馴染
    1. 曽国藩の風流振
    2. 龍済光と城南の名妓
    3. 馴染を持ねば肩身が狭ひ
    4. 銭太太は脂粉上り
    5. 官僚艶妾史の内容
  29. 花街の繁昌と廃娼運動
    1. 人心の緩和策と都市繁栄策
    2. 段芝貴と楊翠子落籍事件
    3. 蔡鍔と名妓小鳳仙
    4. 花街の出入は天下御免
    5. 至難なる廃娼
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