支那の売笑
AVプロダクション
二、支那売笑史

周代と売笑婦

前述の如く、支那の売笑婦は、周代に其源を発してゐるが、妓禍が帝王に及んだことは無い。周堂には幽王の褒姒に於ける、恵王の陳嫣に於けるが如く、女色に迷ふて政治を怠り、その滅亡を早からしめたことはあつたが、売笑婦が帝王に接近するまでには至らなかつた。その代りに、諸公にして其害を蒙ったものは少なくなかつた。指を先づ斉の策略に乗やられたる魯の定公に屈する。前に述べた論語の「斉人歸女楽」の句よりして「斉歸」といふ言葉までできた。

「斉歸」に対し、「鄭賂」といふ句がある、これは、左伝にある「鄭人賂晋侯以女楽二八晋侯以楽」に本づきたるものである、韓非子にも「以労其心乱其政」とあるから、女楽に迷ふて政を乱したことが解る。史記秦本紀に「女楽二八遺戎王、戎王受而説之」とあり、墨子に「秦穆公之時、戎強、穆公遺之女楽二八、戎王大喜、数飲宴日夜不休左右有言秦寇至者、囚弯弓而射之、秦寇杲至、戎王酔而臥於尊下、卒生縛之」とある戎王も女楽の害を受けたと見える。その他、斉の桓公、懿公、宋の昭公、康王、衛の宣公、魯の桓公、宋公、文公等も女楽や、女楽出身の女の為めに禍を受けて居る。此間は春秋戦国の世にて、世は修羅の巷と化し、二南の化、全く衰へ、諸侯の淫乱は天下を蠧毒し、民風腐敗の極、男女礼を以てせず、私に奔つて野合を為すもの多く、従つて売笑婦の隆盛を来たし、之が盛んに政策に用ゐられた。

二、支那売笑史

  1. 支那売笑婦の起原
    1. 三皇時代の洪涯妓
    2. 斉の管仲と女閭
    3. 世界最初の遊廓
    4. 瓦舎に就て
  2. 妓女の前身は宮中の女楽
    1. 北里の舞と靡靡の楽
    2. 王者房中の楽
  3. 世界に於ける芸妓の元祖
    1. アゼンスのコンパニオン
    2. 日本の遊女と女舞
  4. 支那最初の公娼制
    1. 夜合の資を微す
  5. 妓女を政治に利用
    1. 魯斉に女楽を贈る
    2. 魯の定公女楽に迷ふ
  6. 妓女孔子を走す
    1. 斉人歸女楽賦
    2. 孔子五章の剌
  7. 周代と売笑婦
    1. 晋侯政を乱す
    2. 戎王と女楽の害
    3. 諸侯の淫乱天下を毒す
  8. 秦の始皇は妓女の子
    1. 呂不韋と邯鄲の美姫
  9. 漢の武帝営妓を設く
    1. 咲誇った陣中の花
    2. 妓女と軍士の風流事
    3. 武帝の李大人は妓女出身
  10. 宮中の遊廓と天子の素見
    1. 斉の宝卷の淫行
    2. 玉樹後庭花の曲
    3. 潘金蓮い故事
  11. 隋煬帝の風漉と妓女
    1. 西苑と十六院
    2. 御女車と殿脚女
  12. 唐代の遊廓平康里
    1. 長安の風流薮沢
  13. 教坊と宜春院
    1. 官妓収締の官署
  14. 雅楽寮と妓生の伝来
  15. 後梁から宋の滅亡まで
    1. 娼婦が産んだ皇子
    2. 北宋の徽宗と先賞元宵の故事
    3. 南宋理宗の淫行
  16. 北京に於ける元代の公娼
    1. マルコポロの紀行
    2. 二万五千の公娼
    3. 元の順帝の醜行
  17. 明代の教戸と楽戸
  18. 不夜宮と長春苑
    1. 花柳街と胡同庵
    2. 男妓相公と妓女
    3. 北京に於ては遊廓の元祖
    4. 宮中に妓館を移す
  19. 東院の瑟に西院の琵琶
  20. 燈市燕飲の光景
    1. 明范景文の燈市の詩
  21. 乾隆帝と八大胡同
    1. 歌妓名優を集む
    2. 北方劇界の大改革
    3. 売肉専門の遊女屋
  22. 俳優と妓女の反目
    1. 男女妓館の区別
    2. 芸妓と俳優との情交
  23. 民国と公娼の制度
  24. 官妓と詩客文人
    1. 南朝の金粉北地の烟脂
    2. 才女名妓の出現
  25. 売肉専門に堕落す
    1. 聴妓と観妓と宿娼
    2. 妓女に対する観念
  26. 玉の輿を狙ふ支那娘
    1. 清末民初と花街
    2. 明治維新に彷彿
  27. 妓女は社交に必要
    1. 支那の婦人と妓女
  28. 官僚と芸者の馴染
    1. 曽国藩の風流振
    2. 龍済光と城南の名妓
    3. 馴染を持ねば肩身が狭ひ
    4. 銭太太は脂粉上り
    5. 官僚艶妾史の内容
  29. 花街の繁昌と廃娼運動
    1. 人心の緩和策と都市繁栄策
    2. 段芝貴と楊翠子落籍事件
    3. 蔡鍔と名妓小鳳仙
    4. 花街の出入は天下御免
    5. 至難なる廃娼
AVプロダクション LINX