支那の売笑
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二、支那売笑史

明代の教坊と楽戸

明代に於ける帝王の淫縱は、筆紙の尽し得る所でない。明朝十四代の神宗の如きはその甚しき一人で、妓女の遊びとして近頃まで遺つてゐた、「蝶幸」とか「営幸」とか「紅幸」又は「情紅」とかいふ遊戯は、此時代にできたものである。神宗、光宗の後を亨けた喜宗も、父祖に等しき荒淫の天子であつた。斯くて上の好む所、丁之に做ひ北支官民の風俗は、甚しく淫蕩に陥つた。五雑俎(明の謝肇淛)に「今時娼妓布満天下、其大都会之地、動以千百計、其他窮州僻邑在在有之、終日倚門献笑、売淫為活、生計至此亦可憐矣」とあるから、当時の一般を知ることができる。

明代にも教坊司の設けがあつた。其制度は唐宋時代と大差はなかつた、明朝教坊規条碑に「入教坊者準為官妓、別報丁口賦税、……官妓之夫縁巾縁帯、……着猪皮靴……」とある。又五雑爼には「両京教坊官、収其税謂之脂粉銭、隸郡県者則為楽戸、聴使令」とある。「楽戸」とは、魏書刑法志に「古時罪人之妻女、没収入官為楽戸」とあり、辞源に「明時山西陜西両省人民、凡在建文来、不附成祖纂立者、悉編為楽籍習賤業、世世子孫不得与斉民歯、清雍正元年、始免除之、令其改業為良民」とあるが、面白いことである。現在支那では「楽戸」とは専ら妓館の称となし、公文に使用されて居る。

二、支那売笑史

  1. 支那売笑婦の起原
    1. 三皇時代の洪涯妓
    2. 斉の管仲と女閭
    3. 世界最初の遊廓
    4. 瓦舎に就て
  2. 妓女の前身は宮中の女楽
    1. 北里の舞と靡靡の楽
    2. 王者房中の楽
  3. 世界に於ける芸妓の元祖
    1. アゼンスのコンパニオン
    2. 日本の遊女と女舞
  4. 支那最初の公娼制
    1. 夜合の資を微す
  5. 妓女を政治に利用
    1. 魯斉に女楽を贈る
    2. 魯の定公女楽に迷ふ
  6. 妓女孔子を走す
    1. 斉人歸女楽賦
    2. 孔子五章の剌
  7. 周代と売笑婦
    1. 晋侯政を乱す
    2. 戎王と女楽の害
    3. 諸侯の淫乱天下を毒す
  8. 秦の始皇は妓女の子
    1. 呂不韋と邯鄲の美姫
  9. 漢の武帝営妓を設く
    1. 咲誇った陣中の花
    2. 妓女と軍士の風流事
    3. 武帝の李大人は妓女出身
  10. 宮中の遊廓と天子の素見
    1. 斉の宝卷の淫行
    2. 玉樹後庭花の曲
    3. 潘金蓮い故事
  11. 隋煬帝の風漉と妓女
    1. 西苑と十六院
    2. 御女車と殿脚女
  12. 唐代の遊廓平康里
    1. 長安の風流薮沢
  13. 教坊と宜春院
    1. 官妓収締の官署
  14. 雅楽寮と妓生の伝来
  15. 後梁から宋の滅亡まで
    1. 娼婦が産んだ皇子
    2. 北宋の徽宗と先賞元宵の故事
    3. 南宋理宗の淫行
  16. 北京に於ける元代の公娼
    1. マルコポロの紀行
    2. 二万五千の公娼
    3. 元の順帝の醜行
  17. 明代の教戸と楽戸
  18. 不夜宮と長春苑
    1. 花柳街と胡同庵
    2. 男妓相公と妓女
    3. 北京に於ては遊廓の元祖
    4. 宮中に妓館を移す
  19. 東院の瑟に西院の琵琶
  20. 燈市燕飲の光景
    1. 明范景文の燈市の詩
  21. 乾隆帝と八大胡同
    1. 歌妓名優を集む
    2. 北方劇界の大改革
    3. 売肉専門の遊女屋
  22. 俳優と妓女の反目
    1. 男女妓館の区別
    2. 芸妓と俳優との情交
  23. 民国と公娼の制度
  24. 官妓と詩客文人
    1. 南朝の金粉北地の烟脂
    2. 才女名妓の出現
  25. 売肉専門に堕落す
    1. 聴妓と観妓と宿娼
    2. 妓女に対する観念
  26. 玉の輿を狙ふ支那娘
    1. 清末民初と花街
    2. 明治維新に彷彿
  27. 妓女は社交に必要
    1. 支那の婦人と妓女
  28. 官僚と芸者の馴染
    1. 曽国藩の風流振
    2. 龍済光と城南の名妓
    3. 馴染を持ねば肩身が狭ひ
    4. 銭太太は脂粉上り
    5. 官僚艶妾史の内容
  29. 花街の繁昌と廃娼運動
    1. 人心の緩和策と都市繁栄策
    2. 段芝貴と楊翠子落籍事件
    3. 蔡鍔と名妓小鳳仙
    4. 花街の出入は天下御免
    5. 至難なる廃娼
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