支那の売笑
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二、支那売笑史

東院の瑟に西院の琵琶

不夜長春両廊の前後は判明せぬが、北京の城内に「東西両院」といふ純然たる女郎屋があつたことがある。折津日記に「京師黄華坊、東院本司胡同、本司者教坊司也、又有匈闌胡同、演楽胡同相近、復有馬姑娘胡同、宋姑娘胡同、粉子胡同、出城則有西院、皆旧日之北里也」とあり、「宸頃識略」にもこれと同様のことが書いてある。又燕都遊覧志(明孫国荘撰)には「東院在総鋪胡同(今の総布胡同)東城畔、昔時歌舞地、今寥寥数家如邸舍兼之人堀上為坏、ま目坑塹、従寒煉衰草中、想走馬章台之盛邈、不可復尋」とあるから、東院は総布胡同や、本司胡同附近に在り、西院は馬姑娘胡同の附近にあつたと見える。

本司胡同や、演楽胡同は今の燈巾口即ち東単牌楼大街の北に在る、黄華坊も燈市口の附近であるから、史家胡同にかけあの辺一帯には、遊女屋が散在して居たのであつた。本司とは教坊を司るなりとあり、而して京師の倡家は此教坊に隸して居た。宸垣識略に「京師倡家、東西院、籍隸教坊、猶是唐宜春院遣意」とあるのを見ると、是等両院は唐の宜春院の遺習を踏んでゐた。又「東院以瑟、西院以琵琶、藉勲戚、以避貴游之擾」とあるから、東院の妓女は瑟を奏し、西院の妓女は琵琶を弾じて客の興を添へ、此両院は、勲戚の人の遊ぶ所にして貴遊の子弟と同じく燕飲することを憚つたと見える、此東西院の光景を描いた絵(口絵参照)は諸書に載つて居る。

二、支那売笑史

  1. 支那売笑婦の起原
    1. 三皇時代の洪涯妓
    2. 斉の管仲と女閭
    3. 世界最初の遊廓
    4. 瓦舎に就て
  2. 妓女の前身は宮中の女楽
    1. 北里の舞と靡靡の楽
    2. 王者房中の楽
  3. 世界に於ける芸妓の元祖
    1. アゼンスのコンパニオン
    2. 日本の遊女と女舞
  4. 支那最初の公娼制
    1. 夜合の資を微す
  5. 妓女を政治に利用
    1. 魯斉に女楽を贈る
    2. 魯の定公女楽に迷ふ
  6. 妓女孔子を走す
    1. 斉人歸女楽賦
    2. 孔子五章の剌
  7. 周代と売笑婦
    1. 晋侯政を乱す
    2. 戎王と女楽の害
    3. 諸侯の淫乱天下を毒す
  8. 秦の始皇は妓女の子
    1. 呂不韋と邯鄲の美姫
  9. 漢の武帝営妓を設く
    1. 咲誇った陣中の花
    2. 妓女と軍士の風流事
    3. 武帝の李大人は妓女出身
  10. 宮中の遊廓と天子の素見
    1. 斉の宝卷の淫行
    2. 玉樹後庭花の曲
    3. 潘金蓮い故事
  11. 隋煬帝の風漉と妓女
    1. 西苑と十六院
    2. 御女車と殿脚女
  12. 唐代の遊廓平康里
    1. 長安の風流薮沢
  13. 教坊と宜春院
    1. 官妓収締の官署
  14. 雅楽寮と妓生の伝来
  15. 後梁から宋の滅亡まで
    1. 娼婦が産んだ皇子
    2. 北宋の徽宗と先賞元宵の故事
    3. 南宋理宗の淫行
  16. 北京に於ける元代の公娼
    1. マルコポロの紀行
    2. 二万五千の公娼
    3. 元の順帝の醜行
  17. 明代の教戸と楽戸
  18. 不夜宮と長春苑
    1. 花柳街と胡同庵
    2. 男妓相公と妓女
    3. 北京に於ては遊廓の元祖
    4. 宮中に妓館を移す
  19. 東院の瑟に西院の琵琶
  20. 燈市燕飲の光景
    1. 明范景文の燈市の詩
  21. 乾隆帝と八大胡同
    1. 歌妓名優を集む
    2. 北方劇界の大改革
    3. 売肉専門の遊女屋
  22. 俳優と妓女の反目
    1. 男女妓館の区別
    2. 芸妓と俳優との情交
  23. 民国と公娼の制度
  24. 官妓と詩客文人
    1. 南朝の金粉北地の烟脂
    2. 才女名妓の出現
  25. 売肉専門に堕落す
    1. 聴妓と観妓と宿娼
    2. 妓女に対する観念
  26. 玉の輿を狙ふ支那娘
    1. 清末民初と花街
    2. 明治維新に彷彿
  27. 妓女は社交に必要
    1. 支那の婦人と妓女
  28. 官僚と芸者の馴染
    1. 曽国藩の風流振
    2. 龍済光と城南の名妓
    3. 馴染を持ねば肩身が狭ひ
    4. 銭太太は脂粉上り
    5. 官僚艶妾史の内容
  29. 花街の繁昌と廃娼運動
    1. 人心の緩和策と都市繁栄策
    2. 段芝貴と楊翠子落籍事件
    3. 蔡鍔と名妓小鳳仙
    4. 花街の出入は天下御免
    5. 至難なる廃娼
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