清吟小班の所在地
「清吟小班」とは、「芸者家」と解釈するが至当である、実際は芸妓の置屋と待合とを兼ねて居る。「清吟小班」の巣ともいふべき俗称「八大胡同」は最初乾隆帝が俳優を置いた時には「班大人胡同」と称して居たのを、其音が変じて八大胡同となったので、其実は六大胡同である。吉原土手が、実際五丁しかないのを「土手八丁」と言はねば唄の文句にならぬと能く似て居る。今では「遊廓」といったやうに妓館の総称になって了った、八大胡同は又「八埠」とも呼んで居る。所謂「八大胡同」の六大胡同とは 韓家潭、百順胡同、万仏寺湾「陜西巷、石頭胡同、王広福斜街を指すのである。其他最近香廠に東西「大森里」といふ上海式な妓館の一廓が出来た。之等胡同に軒を列べて居る「清吟小班」の班名は次のやうである。
▽韓家潭……長翕班、龍鳳院、聚美園、萃芳班、松翠班、仙花楼、宝鳳院、武林金、長林班、紅絹閣、双泉班、怡春院、春艶院、長裕盧、聚仙院、怡紅院、双鳳院、慶余堂、富興班、武陞班、鳳霓院、
▽百順胡同……群芳班、四喜班、艶鳳院、長春班、天喜班、興順班、美鳳院、龍泉班、識閾班、素雲班、蘭花院、鴻陞班、義心院、慶春班、宝仙班、蒔花館、広寒仙館、
▽万仏寺湾胡同……雲和班、
▽陜西巷……松林閣、雲香班、迎仙館、三福班、聚福班、北林房、浜湘班、泉湘班、春華班、翕鳳院、鴻暢閣、徳順班、福喜班、迎仙館、
▽石頭胡同……四海昇平、文華班、詠霓舫、雲蘭閣、翠芬班、朝陽楼、双福班、萃華班、鳳翔院、貴蓮班、翠仙班、栄椿班、
▽王広福斜街……桂荷班、復和班、蘇香閣、泉徳班、山海班、喜順班、
▽大森里……(東)四順班、玉泉班、桃花館、春明院、天宝班、貴鳳班、群仙班、五鳳楼、義心仙館、華園班、群賢閣、花鴻班、(西)酔美仙館、聚芳班、鳴鳳院、平心院、暢春仙館、永群班、宜春院、聚興院、蘭福、暢興院、
是等の妓館は、時に増減は有るが、殆んど株の如くになって居るから滅多に変更しない、変更するのは多く営業禁止をされた場合に、名義人を変へる位に過ぎぬ。其他前述の胡同は全部「清吟小班」のみであるかといふに、そうでないのである、石頭胡同、王広福斜街、陜西巷等には芸妓屋の中に「茶室」即ち女部屋が介在して居るのである。而して前に述べた如く、一廓をなしてないから、妓館に隣して普通の商戸もあるのである、別けて多いのは薬屋、化粧品屋、靴屋、料理店等である。
是等の妓館に遊ぶには、内城よりすれば、先づ前門外を出で、大柵欄の雑沓を抜け観音寺街を進み、十字街を右の琉璃廠街道に出でずして、左に往けば程なく左方に曲る可成大きな胡同がある、それが石頭胡同である。胡同を入って数軒ならずして妓館が在る、其他の胡同はこれに接近して居る、此辺りは自動車、馬車、人力車ひやかしの遊野郎等織るが如く、各妓館の軒燈昼のやうに輝いて、何時も不夜城の光景と、脂粉の香が漂ふて居るので、一度足を此処に入るれば、知らないものでも直ちにそれと意識せらるるのである。偖てこれから妓館の解剖に取かゝる。