支那の売笑
五、清吟小班

引附部屋に案内さる

その部屋が日木の所謂引附部屋であるが、日木の遊廓のやうに一定した部屋が有るのは少ない、空いて居る妓女の部屋を随意に使用するのが多い。綺麗な部屋に当ればよいが、廻り分せが悪るければ惨憺なる所に案内さるる、冬は支那暖炉の「煤球児」の臭ひ鼻を突いてむせび返り、夏は何とも知れず蒸れ臭くて胸苦しくなる、しかし馴れて来ると平気となる。

部屋の装飾は大概一定して居る、入口には勿論「ドア」はあるが、常には其代りとして白又は紺の「布簾」を垂れて出入を便にして居る、室の隅には「洋床」印ち洋式のべットが置かれて居る。周囲は型の如く布を以て覆ふてあるが、大概は一方の布を揚げて故意と内部が見へるやうにしてある。色合の美しい緞子の布団や、大小一組の枕が行儀よく置かれて居るなど総てが挑発的である、或る目的を抱いて浮かれて来た嫖客は、六尺床上に毎夜繰返さることなど連想して、身も心もそわそわとして落着かないといふことである。

五、清吟小班

  1. 班子の所在地
    1. 八大胡同の名称
    2. 八大胡同の班名
    3. 八埠に遊ぶ道筋
  2. 班子の構造と彩綢
  3. 芸者買の順序
    1. 男衆を亀奴と呼ぶ
    2. 妓夫太郎の任務
    3. 芸妓屋の門を入る
    4. 脂粉の香漂ふ
  4. 引附部屋に案内さる
    1. 煤球児の臭ひ
    2. 室隅の洋床
    3. 総てが挑発的
    4. 身も心も落着かぬ
  5. 見客と芸妓の顔見せ
    1. 交渉の第一歩
  6. 客も妓も懸命の場面
    1. 改天見と一廻りしてから
    2. 変体色情狂
  7. 撰定が済み初挨拶
    1. 妾を可愛かりて下さい
    2. 嫖客の得意
  8. 愈々本部屋入り
    1. 身元調べ
    2. 煙の次に茶
    3. 乾いたものが湿ふ
    4. 花柳界で大事な縁起
  9. 妓女の歌と客の聴方
    1. 昔の点曲児
    2. 歌の撰択が済み叫師伝
    3. 胡琴児的来る
    4. 師伝銭の額
  10. 茶をすすつて芸者遊び
    1. 打茶囲と盤子銭
    2. 廻し客は取らぬ
    3. 恋の鞘当は無い
    4. 見立替へを許さぬ
  11. 料理屋に妓女を呼ぶ方法
    1. 局票の書き方
    2. 叫条子と借条子
    3. 友人の紹介荐条子
  12. 支那の芸妓はお酌をせぬ
    1. 客から妓女に敬意を表す
    2. 芸妓相手の乱舞は出来ぬ
  13. 他班の馴染を呼ぶ色男
  14. 泊り込までの道程
    1. 肉の取引が成立
  15. 芸も売れば身も売る
    1. 支那の妓女に対する誤解
  16. 正式に泊り込む手続
  17. 縁結びの祝宴
    1. 花酒の招待状
  18. 花酒費の一覧表
    1. 枕金の相場
  19. 花酒の当日と竹戦
    1. おひけとなって吃客飯
  20. 芙蓉帳裡巫山の夢
  21. 客に対する観念と待遇振り
    1. 支那国民性の一端
    2. 振るといふことがない
  22. 節期の無心と吝な客
    1. 上車と下車
  23. 花酒抜きの情意投合
  24. 外国人は軽便で持てる
    1. 花柳竹技詞
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