「花酒」抜きの情意投合
前記で正式な泊り込みに就て述べたから今度は「花酒」をせずして「住局」する略式の要領を述ぶることとする。元来支那の芸者は「花酒」をせねば客は断じて取らぬと定まつて居たが、時代の潮流はそんな面倒なことを許さなくなり、今では段々花酒の風習が無くなつて来た。余程有名な妓女の外は、花酒を要せずして、第一回に枕金として稍多額の玉代を提供すれば、容易に妥協は成立するのである。前にも述べたやうに芸妓の中に二種ありて、平易な一派は、第一回から特別枕金を支払せずとも、平常の玉代を投ずればそれでよいのである、中には「花酒」を要求され、兎に角今夜は住居し、又日を改めて花酒をすると称し、巧みに誤魔して泊り込む「明天花酒」組が多いといふことである。之等はその内にやるやると称し、妓女の方でも朋輩の手前当分は弁解もするが結局自然消滅となつて了ふといふことである。