芙容帳裡巫山の夢
花酒の宴を終へ、諸支払を済ましてからが愈々「おひけ」となるのである。最後の部屋に入つてから、花妓は更に客に対し、夜食を勧むる、これは花酒の宴は、前記の如く飯を食ふまでに至らなかつたので、簡単にお茶漬けをやるのと同様である、是を「吃客飯」と謂ひ、一二元の飯銭で済む。卓を囲みて二人差向ひ、水入らずの夫婦気取で食事をするのであるから、客にとりては堪らなく嬉しいのである。食事も済み、雑談も済み、夜も更けて、茲に愈々芙容帳裡に巫山の夢は結ばるるのである。床に入らんとする前に、洗水や荼等を運んで来た夥計や乾媽に対」、更に祝儀を遣る方がよいとのことである。それから後に是非心得て置かねばならぬこともあるが、風俗壊乱となるから書く訳には行かぬ。要するに同じ人間であるから、自然と其間の要領を知ることが出来得るのである、改めて説明するにも及ぶまい。