見客(芸妓の顔見せ)
一隅には必ず大鏡を置き、テーブルや椅子を程よく配置してある。すすめらるる儘に椅子に着くと夥計(ボーイ)が、先づ
ニー(中国語)有熟人没有、提補一声児(あなたはお馴染がありますか?)
と「熟人」または「相知」即ち「おなじみ」の有無を問ふ、日本の遊廓で、妓夫太郎が劈頭に「お馴染は‥‥」ときくのと同様である。お馴染があれば其妓名をいふまでもなく、彼等はよぐ記憶して居るから直ちに敵娼(あひかた)を呼ぶのである、客が
没有熟人児(馴染は無い)
と答ふると、夥計はすかさず
給您見々罷(どうぞご覧なさい)
それでは紹介してあげますから御覧なさいとの意味となる、客は黙つて居るか、又は「可以(よろしい)」と答へると、夥計は黄ひ声を張り揚げて「見客」と呼ぶ、恰も動員令が下つたやうなものである。この声一度伝はるや、各々その部屋に引込んで居た妓女連が、蓮歩静々と、引附け部屋さして集まつて来るのである。