支那の売笑
五、清吟小班

芸者買ひの順序

先づ試みにその門を潜って見る。門を入れば直ぐ普通の住宅と同様「門房」がある。春から秋にかけて気候の好い時には、門内の両側に椅子を列べ、日木でいふ「妓夫大郎」が客の来るを待ち搆へて居るこの男衆を「亀奴」といふ亀は「忘八」と称し、支那では一般に忌み嫌はれて居るから、肉を鬻く女部の召使に此名称を冠したのである。しかし斯く呼べば罵詈するやうになるから、普通は「夥計」と呼ぶのである、日本の妓夫太郎は、自から客を勧誘し、而してこれを鴇母(ヤリテ)に引渡すのであるが、支那ではそうでなく、単に客の来るを門に迎へ、之を後房に通知するのが役目である 其方法は嫖客が門に入ると、彼等は大声を発して「来客」又は「譲着」と叫ぶ、日木でいふ「お客サマ…」又は「いらっしやい‥‥」と呼ぶのと同様である、そうすると後方から「這辺児請」と大声で景気よく受け答へる「どうぞこちらへ」といふ意味である。

遊客は劈頭この声を浴せかけられてスッカリ遊蕩気分になって了ふので、気の小さい客は妓女を聘ばずして門を出づるのがきまりが悪いといふことである、「来客」に送られ「這辺児請」に迎へられた客は、後方に進むと打牌の騒ぎさんざめきの声、歌唱の音、脂粉の香漂ふ中に、雑然騒然と人の心を魅らせるのである。更に進んで行くと後方勤務の「亀奴」に「来了」と迎へられ一室に案内さるるのである。

五、清吟小班

  1. 班子の所在地
    1. 八大胡同の名称
    2. 八大胡同の班名
    3. 八埠に遊ぶ道筋
  2. 班子の構造と彩綢
  3. 芸者買の順序
    1. 男衆を亀奴と呼ぶ
    2. 妓夫太郎の任務
    3. 芸妓屋の門を入る
    4. 脂粉の香漂ふ
  4. 引附部屋に案内さる
    1. 煤球児の臭ひ
    2. 室隅の洋床
    3. 総てが挑発的
    4. 身も心も落着かぬ
  5. 見客と芸妓の顔見せ
    1. 交渉の第一歩
  6. 客も妓も懸命の場面
    1. 改天見と一廻りしてから
    2. 変体色情狂
  7. 撰定が済み初挨拶
    1. 妾を可愛かりて下さい
    2. 嫖客の得意
  8. 愈々本部屋入り
    1. 身元調べ
    2. 煙の次に茶
    3. 乾いたものが湿ふ
    4. 花柳界で大事な縁起
  9. 妓女の歌と客の聴方
    1. 昔の点曲児
    2. 歌の撰択が済み叫師伝
    3. 胡琴児的来る
    4. 師伝銭の額
  10. 茶をすすつて芸者遊び
    1. 打茶囲と盤子銭
    2. 廻し客は取らぬ
    3. 恋の鞘当は無い
    4. 見立替へを許さぬ
  11. 料理屋に妓女を呼ぶ方法
    1. 局票の書き方
    2. 叫条子と借条子
    3. 友人の紹介荐条子
  12. 支那の芸妓はお酌をせぬ
    1. 客から妓女に敬意を表す
    2. 芸妓相手の乱舞は出来ぬ
  13. 他班の馴染を呼ぶ色男
  14. 泊り込までの道程
    1. 肉の取引が成立
  15. 芸も売れば身も売る
    1. 支那の妓女に対する誤解
  16. 正式に泊り込む手続
  17. 縁結びの祝宴
    1. 花酒の招待状
  18. 花酒費の一覧表
    1. 枕金の相場
  19. 花酒の当日と竹戦
    1. おひけとなって吃客飯
  20. 芙蓉帳裡巫山の夢
  21. 客に対する観念と待遇振り
    1. 支那国民性の一端
    2. 振るといふことがない
  22. 節期の無心と吝な客
    1. 上車と下車
  23. 花酒抜きの情意投合
  24. 外国人は軽便で持てる
    1. 花柳竹技詞
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