支那の売笑
五、清吟小班

撰定が済み初挨拶

偖て見客の結果、気に入つた妓があつたと仮定すると、夥計に向ひ

我挑那個叫△△的姑娘(△△姑娘をあげるから呼ベ)

と告げる、若し名前を記憶せぬ場合は、第何番目に来た姑娘といつてもよい。すると夥計は、再び大声を揚げて「何々姑娘」と呼ぶ、又家により夥計によっては、鷹揚に構え込んで、先づ「您貴姓」(お名前は?)とたづねる、客が「我姓王」(王といふ)と 答へたと仮定すると、そこで初めて客が指定した妓女を呼んで来るのである。指名された女は、応と答へて直ちに引返して来る、以前の済ました顔に此し今度は愛嬌したゝるばかりである。偖て呼ばれた妓女が、引つけ部屋にやって来ると、取引の仲介者とも交渉員ともいふベき夥計は

△△姑娘、這位王老爺挑你(何々姑娘あんたを呼んで下さつた此お客様は王さんといふ方だ)

と紹介する、そうすると妓女は、客に向つて

您照応点児(お贔負にあづかりたい)

碎けていへば、「妾を可愛がつて下さい」と、はにかんだしなをして軽く頭を下ける。馴れた妓になると握手をしたり、いきなり膝にのほるのもある。何れにしても嫖客の得意や思ふベしである。

五、清吟小班

  1. 班子の所在地
    1. 八大胡同の名称
    2. 八大胡同の班名
    3. 八埠に遊ぶ道筋
  2. 班子の構造と彩綢
  3. 芸者買の順序
    1. 男衆を亀奴と呼ぶ
    2. 妓夫太郎の任務
    3. 芸妓屋の門を入る
    4. 脂粉の香漂ふ
  4. 引附部屋に案内さる
    1. 煤球児の臭ひ
    2. 室隅の洋床
    3. 総てが挑発的
    4. 身も心も落着かぬ
  5. 見客と芸妓の顔見せ
    1. 交渉の第一歩
  6. 客も妓も懸命の場面
    1. 改天見と一廻りしてから
    2. 変体色情狂
  7. 撰定が済み初挨拶
    1. 妾を可愛かりて下さい
    2. 嫖客の得意
  8. 愈々本部屋入り
    1. 身元調べ
    2. 煙の次に茶
    3. 乾いたものが湿ふ
    4. 花柳界で大事な縁起
  9. 妓女の歌と客の聴方
    1. 昔の点曲児
    2. 歌の撰択が済み叫師伝
    3. 胡琴児的来る
    4. 師伝銭の額
  10. 茶をすすつて芸者遊び
    1. 打茶囲と盤子銭
    2. 廻し客は取らぬ
    3. 恋の鞘当は無い
    4. 見立替へを許さぬ
  11. 料理屋に妓女を呼ぶ方法
    1. 局票の書き方
    2. 叫条子と借条子
    3. 友人の紹介荐条子
  12. 支那の芸妓はお酌をせぬ
    1. 客から妓女に敬意を表す
    2. 芸妓相手の乱舞は出来ぬ
  13. 他班の馴染を呼ぶ色男
  14. 泊り込までの道程
    1. 肉の取引が成立
  15. 芸も売れば身も売る
    1. 支那の妓女に対する誤解
  16. 正式に泊り込む手続
  17. 縁結びの祝宴
    1. 花酒の招待状
  18. 花酒費の一覧表
    1. 枕金の相場
  19. 花酒の当日と竹戦
    1. おひけとなって吃客飯
  20. 芙蓉帳裡巫山の夢
  21. 客に対する観念と待遇振り
    1. 支那国民性の一端
    2. 振るといふことがない
  22. 節期の無心と吝な客
    1. 上車と下車
  23. 花酒抜きの情意投合
  24. 外国人は軽便で持てる
    1. 花柳竹技詞
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