縁結びの祝宴
斯くの如くにして、客の提議か、又は妓女の勧誘か、何れの形式に拠つても、結局住局の口約が成立したと仮定しても、直ちに泊り込むといふ訳にはゆかぬのである。日本の如く、玉代さへ支払へばそれでよいといふやうな、軽便な組織になっては居らぬ、尚一歩進んで「花酒」又は「擺酒」といふ宴会を催さねばならぬのである。此形式を踏まねば、野暮天に取扱るるのみならず、粋人としての資格が無いのである。「花酒」は謂はゞ結婚の祝言みたやうなものである、固めの酒宴である、縁結びの登録をするやうなものである。そこでこれには面倒な形式が伴って居る、廊の内に一番大切で、一番華やかな祝宴である。
「花酒」は花妓の顔を立てるといふことが主なる目的となつて居るから、自分の友人を招待すると共に、敵娼の朋輩も招かねばならぬ。其招待状は前掲第三形式のやうに書く。花酒の招待状と普通の招待状と相違せる点は、普通「潔樽候」書くのを「酒叙」と改むればそれでよいのである。右の外普通の手紙の様式にしても差支ないのである、要はたゞ花酒に招待することが徹底すればそれで足りる。