支那の売笑
五、清吟小班

支那の芸妓はお酌をせぬ

前記の方式順序にて「局票」を、料理屋の夥計に渡すと、料理屋からは、早速これを其妓館に届ける、妓館は前にも述ベた如く、外城にあるから、内城の料理屋から呼ぶ場合には、其旨を電話で通知するのである、そうすると時を移さず出張して来る。日本でも芸妓は「箱丁」が送り迎へをするが、それは料理屋の帳場までで、箱丁は客宦には来ない。然るに支那の芸妓は、一人で客室に来るやうなことはない必ず「乾媽」に助けられつゝやつて来る。それのみでなく、歌を唄う妓女は先づ客に一揖して座に着くて来るから、ドヤドヤと一団隊押寄せるのである。妓女は先づ客に一揖して座に着く 老没見(おひさし振りでした)とか又は早来了(お早くいらしやつた)位の挨拶で済まして居る。済まして居るだけならは未だしも、中には豪然として搆へ込むのである日本の芸妓は直ちに「お酌を‥‥」と徳利を執つて愛嬌を振蒔くが、支那の妓女はお酌をせぬのが普通である。

要するに、支那の妓女を料理店に聘ぶのは、お酌をさせんが為ではなく、大概客分として招いたやうな結果となる、だから客のお気嫌を取るなどは以ての外である、反つて客の方から、始終芸妓の意を迎へて居らねばならぬ、気の利いた妓になると、酒も侑めるが、そんなものは殆んど無いといつてもよい。歌妓であればサツサと歌ひ、歌妓で無いものは談話をして、約三十分位にして去つて了ふ。叫局に要する費用は、外城の料理屋であれば五元、城内の遠出は十元である、其他車代の意味で同行した乾媽に一元乃至二元を与へねばならぬ。「師伝銭」は妓館内と同様である。

初め主人が局票を書く時に、予め客に向つて相知の有無を聞く、其答へは随意だが大概は無いと謙遜するやうである、そうすると主人が知らない妓を聘んで当てがつてくれる。其場合には、主人は芸妓に対し、其対客を指定する、そうすると芸妓は、其客の後方の椅子に着席するから、客は先づ、煙草を妓女に与へて敬意を表し、而して然るベく挨拶を取交すベきである、主客顛倒の感がある。況んや、日本の如く、芸妓を相手に痛飲乱舞することは、今の支那では夢にも見られぬことである。

五、清吟小班

  1. 班子の所在地
    1. 八大胡同の名称
    2. 八大胡同の班名
    3. 八埠に遊ぶ道筋
  2. 班子の構造と彩綢
  3. 芸者買の順序
    1. 男衆を亀奴と呼ぶ
    2. 妓夫太郎の任務
    3. 芸妓屋の門を入る
    4. 脂粉の香漂ふ
  4. 引附部屋に案内さる
    1. 煤球児の臭ひ
    2. 室隅の洋床
    3. 総てが挑発的
    4. 身も心も落着かぬ
  5. 見客と芸妓の顔見せ
    1. 交渉の第一歩
  6. 客も妓も懸命の場面
    1. 改天見と一廻りしてから
    2. 変体色情狂
  7. 撰定が済み初挨拶
    1. 妾を可愛かりて下さい
    2. 嫖客の得意
  8. 愈々本部屋入り
    1. 身元調べ
    2. 煙の次に茶
    3. 乾いたものが湿ふ
    4. 花柳界で大事な縁起
  9. 妓女の歌と客の聴方
    1. 昔の点曲児
    2. 歌の撰択が済み叫師伝
    3. 胡琴児的来る
    4. 師伝銭の額
  10. 茶をすすつて芸者遊び
    1. 打茶囲と盤子銭
    2. 廻し客は取らぬ
    3. 恋の鞘当は無い
    4. 見立替へを許さぬ
  11. 料理屋に妓女を呼ぶ方法
    1. 局票の書き方
    2. 叫条子と借条子
    3. 友人の紹介荐条子
  12. 支那の芸妓はお酌をせぬ
    1. 客から妓女に敬意を表す
    2. 芸妓相手の乱舞は出来ぬ
  13. 他班の馴染を呼ぶ色男
  14. 泊り込までの道程
    1. 肉の取引が成立
  15. 芸も売れば身も売る
    1. 支那の妓女に対する誤解
  16. 正式に泊り込む手続
  17. 縁結びの祝宴
    1. 花酒の招待状
  18. 花酒費の一覧表
    1. 枕金の相場
  19. 花酒の当日と竹戦
    1. おひけとなって吃客飯
  20. 芙蓉帳裡巫山の夢
  21. 客に対する観念と待遇振り
    1. 支那国民性の一端
    2. 振るといふことがない
  22. 節期の無心と吝な客
    1. 上車と下車
  23. 花酒抜きの情意投合
  24. 外国人は軽便で持てる
    1. 花柳竹技詞
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