招数児(かけ引)の苦心
其他老媽を連れた令嬢風の暗娼が客を引張る「招数児(かけ引き)」に却々振つたものがあるといふことだ、何れにしても愈々男女が接近して対談するまでに漕ぎつけると、女の方から
你走罷到我家裏座々児去罷(妾の家に遊びに入つしやい)
と切出す、これを鳧に其巣窟に連れ込まれるのである。
前記で屋外の引張りは大略尽きたが、其外に「倚門売笑」といふがある、それは美装して門前に人待ち顔に立つて通行の男に粉眼児するのである。一定の時刻に門前に出で怪しげな眼付をする女は多く暗娼である、女の方から見ず知らやの通行人に向ひ
你上那児去(貴郎は何処にいらつしやいますか)
など言葉をかける位は平気であるといふ。男が暗娼であるかどうかを試みるには
労你駕請你給我一杯茶喝(済みませんがお茶を一杯下さいませんか)
と図々しく切出す者もあるといふことだ、要するに話の端緒を得ればそれでよい、それからは以心伝心忽ちにして妥協が成立する。
其他「余屋分租」即ち「貸間あり」の札を出して一面には客を釣り、一面には近処の手前を繕ふ類もある、又は「尼姑売春」もあつて清潔なるべき寺院を歓楽場に化して居るのもある、民国四年袁世凱称帝の時女革命党の京師に入込む者多く、警戒の密偵が深夜徘徊する妙齢の尼女を捕へて身体検査をしたところ、夾帯の中から市上售る所の春薬の包みを発見したといふ笑話もある。其外に「並和台」とか「抬轄子」といつたやうな賭事の伴つた売春の方法もある、それから或美貌の処女を紹介し多額の枕金を捲上げて置いて、更衣の際に早替りする支那人の所謂「老婦代少女之奇聞」などは珍らしくないことで其巧妙なる手段に乗せられる馬鹿者も少なくないといふ。
暗娼を周旋する媒介婆が市中の何れにもある、之を「転人児的」といふ、女の方から此転人児的に女の周旋を依頼するを「招客」と称し、転人児的からお客を取つたらどうだと女に勧めるのは単に「勧」といふ、男が転人児的に女の周旋を頼むには
有一個△△姑娘你転得了来麼(あの女を世話してくれぬか)
と持込めばよい、淫売婦の客引を「拉人児」といふ。