支那の売笑
九、私娼(密淫売)

公園で引張る要領

「茶館裏吊蚌」の外に「公園等で吊蚌する要領」は多く「洋火」(マツチ)を借るをキツカケに接近する、中央公園の社稷壇の後方樹蔭下のベンチとか、天壇又は先農壇の人無き所に、人待顔の女が一人で淋しく腰を下して息つて居るのを往々見受ける、斯ういふ女は多く怪しい奴である。暗娼婦であるかどうかを鑑別する方法は、其附近のベンチか又は同じべンチに腰を下して見ると解るそうである、怪しげなる女であれば泰然自若として動かない、若しそれが全くの人待ちとか凉をとつて居る女であれば附近に男の接近と共に必ず其場を外すのが当然であるといふことだ、これは女漁りに経験のある某支那人が著者に語つた話である。

斯くの如くにして男女が接近した場合に、双方話しの端緒を得ることには相当に苦心を要する、何か機会を促へねばならぬ、これにも型があるそうである、それは前述のマツチを貸りることである、男女の何れが一方に近づいて

我跟你尋個火児(マツチをお持ちなら貸して下さい)

斯う持ちかけると一方は必ず次のやうに答へる、

可以你使罷(サアとうぞ‥‥)

単にこれだけではなんでもないやうであるが此「可以你使罷」といふことが意味深長である。「使」といふ文字は「お使ひなさい」といふことで何でも無い様であるが斯うした場合に「お使ひなさい」を或意味に深刻に解釈するとをかしな意味に取れるのである。又「花を賞する」こともある、此場合は勿論附近に花がなからねばならぬ、多く男の方から

那個花児有多麼漂亮啊(あの花はナンテ美しいでせう)

といつた様に切出す美しいといふことは普通「好看」といふがこれを特に「漂亮」といふところに面白味がある、「漂亮」とはあかるい、さらす、きれいになるといふ意味となるが、斯ういふ場合に使ふと恰も日本語で芸者などを「綺麗な花」と呼ぶやうな意味となるので「あなたはホントに綺麗だわたしはあなたが好きだ」といつたやうな偶意を含むこととなるそうだ。こゝまで漕ぎつけるには並大体のことでなく、余程の粋人でなければ解らぬといふことである。断つて置くが私は勿論受売りである。

九、私娼(密淫売)

  1. 私娼に接近する方法
  2. 北京の代表的暗娼
    1. 白昼堂々と横行
    2. 素人に見分のつかぬ密淫売
  3. 巧妙なる彼等の出没
    1. 親分子分の関係
    2. 嫖客の選取勝手次弟
    3. 未亡人や旗人の娘
  4. 外人専門の密淫売
  5. 妾の密淫売団
    1. 外人使用のボーイが手引
    2. 清朝時代の黒車
    3. 第三流の密会機関
  6. 暗門子の客筋
  7. 居酒家の客引
  8. 取引前の見合
    1. 厳重なる警察の取締
    2. 男女の合座を禁止
    3. 新聞の慣慨
  9. 吊蚪子の方法
    1. 自身で喰へ込むもの
    2. 客引の勧誘にかかるもの
    3. 浅草公園の出現
    4. 闇に匂ふ白粉の花
  10. 茶館で引張る要領
  11. 公園で引張る要領
    1. 意味深長なる対話
  12. 懸引の苦心
    1. 並和台に櫓轎子
    2. 老婦代少女の奇聞
    3. 淫売の媒介婆
AVプロダクション LINX