茶館で引張る要領
吊蚌の中で「茶館で吊蚌する要領」を述ふる。茶館児等に出張する暗娼婦は多く二人連れが多い、彼等は茶館の一隅に綱を張り、密に毒爪を磨いて待ち搆えて居る。そこに飛び込んだ掠鳥こそ災難である、何とも知れぬ魔力に惹きつけられて了ふのであるが、中には男の方から、これ等怪しげなる女を探して歩いて居る連中がある、「探艶団」といふのは、穿ち不良少年のみでなく老年組にも頗る多いのである。化粧の者は男の目には一見して解る、男が女の附近に座を占めると、この女連は聞えよがしに大声でを話する、それが大概型が有るのである、其一例を挙げて見る。
甲女。你這幾天没上中央公園退去麼(あなたは此頃中央公園に遊びにいらつしやつて)
乙女。中央公園我不愛去那児竟是小白臉児愛起鬪(わたし、中央公園に往くのは大嫌ひよ、あすこでは男の児(小臉児とは美少年のこと)がふさげるんですもの‥‥)
甲女。那怕甚麼的受禅一個小白臉児那不好麼(そんなことは搆はないなやないの‥‥)
乙女。那小白臉児好心眼児的少(だつて人が悪いですもの)
甲女。你別那麼説也有好的(アラ、あんなこと言つていらつしやる、中にはお好きなのがあるでせう!)
乙女。那是没有的事(アラ嫌だワ)
といつたやうな要領で対談し、最後に男の注意を惹く為めに大声で笑ひ、恥かしいといつたやうなシナをしてちよつと「粉眼児」(眼角伝神)即ち色気たつぷりのながし眼を男に浴せかけるのである。斯うした会話や態度は良家の婦女はしないのであるから直ちに売笑婦なる事を観破する、売笑婦ときまり、女の方から誘惑的な態度に出るとモウ占めたものである、所謂探艶党は安心して接近するので、自ら十年の知己となることを得るは易々たることである。春風駘蕩たる一脈の呼吸は女を漁る者は何人も心得て居ることで東西変りはない。