北京の代表的暗娼
先づ北京に於て代表的暗娼ともいふべき有名なる女が三人居る。これを「長安の三傑」と称し、陳七奶々、李五奶々、陳二小姐を指す、これ等は容色といひ肉体美といひ、欠点なき支那美人で、北京に於て此女を知らぬ者は粋人としての資格無きものとせられて居る。陳七奶々は本年三十一二歳々、李五奶々が二十六七歳、陳二少姐が二十二三歳位である。何れも一方の旗頭で北京の暗娼界に一大勢力を持って居る。これ等には警察も手を着けることが出来ねば、新聞などで時々攻繋するが、彼等の地盤は牢として動揺せぬのみならず、自働車を駆って自査横行して居るのである。
彼等は勿論屋内を主として自身堂々たる邸宅を搆えて居る、その客筋なるものは高級の官吏、又は有数の実業家で、之に接近するには容易のことでない、従って客数は極めて少数である、しかし之に接近せんが為めに物奇きな支那人は大金を投ずる、而して一度其香に接すれば、如何なる秘術を有するか知らぬが、極端に迷ひ込むといふことである。彼等は自身淫を鬻くのみならず、親方となって子分を持って居る陳七奶々の如き数十人其他も十数人の美人を引率して居るのである。そこで此三人の手を経ればお好み次第の美人を得ることが容易であるといふ、彼等は又単に枕席に待るのみでなく、希望に拠っては酒席に友人格として食卓を共にすることがあるといふ。此一派は一度馴染となれば、相携へて天津に赴き、又は湯山の湯治にも同行する、それには多額の要求をすること勿論であるが、其風姿態度共に決して売笑婦と観破さるるやうなことは無いといふ、日本に一時流行した「やとな」と略々似て居る点がある。