茶室の設備と収入の分配法
茶室の設備は班子と遜色無いものもある、妓女の部屋も中には堂々たるものがある。初め見客の場合は、班子と大差無いことは前述の通りであるが、たゞ班子と異つて居ることは、班子は他妓の部屋にても空部屋を応用して、打茶囲をやるのみならず、其部屋に於て「開盤子」をやつてよいが、茶室に於て茶代を支払する時には、他妓の部屋にてなさず、必ず其妓女の部屋に於てすることである。若し先客が有つても一度は所謂本部屋に通し、そこで嫖客は初めて茶代を給与するのである、これを「調屋子」といふ、この制は茶室に有つて班子に無いことである。
それから熟客となつてから、妓女に対する心附けは、年節の上車下車等班子と同様である、その外に毎月一同位必ず「開市」といふものを催して、客の懐中を覘ふのでだから開市の時には遊客が少ない、偶々熟客が開市に遭遇せは打茶囲に茶資の二倍、或は四倍、八倍、十倍多くは数十倍も要するのである、普通は四個包舗で足りる例となつて居るから二元位を奮発すれは、それで好いのである。若し小班に於けるが如く友人を招いて饗応せんとすれば、料理、叫条子、犒賞等で一卓子約三十元位を要する打麻雀牌の卓下銭は五十吊位である、開市を「大鼓」と称し、開市をなす客を「捧大鼓」といふ。
収入の分配法は、茶資の一包舗即ち五吊銭は妓館と妓女と等分に分け、零花は妓女の収入となるが、開児銭は妓館と折半である、妓女は自分の所得の中から、毎月の衣服雑品は勿論のこと、寝台料約二元、営業税、電燈料一元四五十仙等を支払せねばならぬ、其代り食事は妓館の主人(開茶室的、開窰子ともいふ)から給するが、頗る不昧物ばかりであるから、自弁でお菜を買ふて食ふ、茶と点心(菓子)も自弁であるから一日に五十位の費用を要するのである、部屋中の諸道其は総て妓女自身の物である。