支那の売笑
六、茶室と下処

巧妙なる営業政策

打茶囲の茶代は普通五吊銭、(銅貨五十枚)で、之を「一個包舗」といふ。其他「爪子児」代として一吊銭を要するから、結局一佃包舗は六吊銭となる訳である。馴染客となれば、瓜子児を取らずして五吊の茶代を置けば足りる、瓜子児は楼主が売るので妓女の収入とはならぬのである。打茶囲の際、大に持てんとするには、単に一包舗では駄目である。宜敷く四包舗(現在では銀一弗)位を奮発せねばならぬ、祝儀を受取ると其多寡に関らず大了は室中に入り来り客に対して

謝々、△△先生(△△さん難有う御座います)

と謝辞を述べて置いてから、院子(庭)の中央に立って声を限りに

謝々某老爺 又は (客の姓)給排幾姑娘△包舗裏……(難有うお座ます、何々先生は何々妓娘に何程のお祝儀を下さった)

と叫ぶのである。此広告こそ妓館の巧妙なる営業政策である。妓館の召使に祝儀の出たことを知らしめるのが主たる目的であらうが、これに拠って

一、祝儀を憤発した客の鼻を高からしめ虚栄心を満足せしむること、

一、他の妓女に対する奬励法となること、

一、附近の同業者に対し、自家の繁昌せることを知らしむる、

三得があるからである。茶代の額を、大声にて発表することは、茶室下処ばかりではなく「茶館」に於ても同様である。斯くすれば、人情として勢ひ多くの茶代を奮発するやうになるのである、此祝儀の発表を「喊舖」といふ。喊舖は、妓館に於ける天来の福音ともいふべく、共声に応じて内庭や門口に居る夥計や打更的(不寝番)などが一々「謝々」と御礼に伺候する、其時の嫖客の得意や思ふべしである。前に述べた如く若し妓女が歌を唄った場合は犒賞二吊銭(銅二十枚)或は三吊銭位を与へて其勢に酬ひなければならぬ。

六、茶室と下処

  1. 茶室は日本の女郎屋
    1. 漁色を主とする遊客
    2. 北京の茶室と其構造
  2. 茶室と打茶園
  3. 芸妓が女郎に下落する原因
  4. 巧妙なる営業政策
    1. 祝儀の高を大声で発表
  5. 茶室の泊込と抽令子去
  6. 茶室の設備と収入の分配法
  7. 下処の所花地と其構造
    1. 下処のひやかし
  8. 愛犬に妓女を配する
    1. 金さへ出せば何でする
    2. 春画の材料となる
  9. 娼妓の鑑札
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