茶室の泊込と抽冷子去
二等茶室の泊込みは頗る簡単である、売笑専門であるから、ぶつつけに今天我不走(今日は帰らぬ)とか今天我住下(今日は泊る)とか露骨に妥協を申込んでも差支ないのである、面倒なこともなく先約がなければ直ちに応ずる。二等と雖も、廻しは取らぬ規定となつて居るが、安売りな彼等は或は例外が無いとも限らぬ、班子の妓女よりも軽便に「偸舗」も出来れば、白昼に同衾することも容易である、これを「抽冷子去」と冷笑するが、家庭の事情で、巧みに抽冷子去の冷罵に甘じて居る、連中も尠なくない。平気な男になると「抽冷子去我小親家」ちよつと親類に往つて来るよ(小親家は 窰子の意との意)といふ。居連けも出来得る訳である。
住下に要する費用は、二十二吊銭(銅貨の二百二十枚)が普通である。其分配方法は
開児銭(玉代)……八吊(これを一箇開児銭といふ)
茶代(包舗)……五吊
大了(取締女)……二吊
夥計(全体に)……三吊
打更的(不寝番)……一吊
跟人(老媽)……一吊
瓜子児……………一吊
であるから先づ銀二元を出さねはならぬ。其他「零花」と称し、妓女に祝儀を一元位は遣ちねばならぬから都合三元を要する訳となる。偸舗や昼間の開舗は、普通一時間一元を給すれば足りるのである。
斯くの如く二等茶室は一夜妓女を独占なすも、僅に銀二元にて足り、若し昼間小閑を偸んで遊ぶには、一元を投ずれば劣情を満すことを得、総ての点に於て簡易に遊興することが出来るので、此処に足を運ぶ者が頗る多い、在留邦人中の独身者も此方面の設備が無いので、此処に遊ぶものが多いといふことである。従つて是れが為めに花柳病を伝染する者も、少なくないといふことである。