(イ)茶室は日本の女郎屋
「清吟小班」を日本の「芸妓屋」とすれば「茶室」考及「下処」は「女郎屋」である前にも述べたやうに、歌妓にも二種ありて、枕席に侍べるを主とするものもあるが、小班の妓女は歌を唄ふことが主たる目的となって居る、これに反し「茶室」の妓女は純然たる娼妓で売淫が主となって居る。「下処」に歪っては茶室の下等なるもので、之を日本でいへば吉原の河岸か、洲崎のケコロあたりのチヨンチヨン格子の女郎格であるといってもよい。
班子には、上流の紳士が出入するが、二等茶室に至っては、漁色を主とする第二流の遊客である。客種に非常な相違がある。現在北京の茶室戸数は八十六戸で抱女郎が八百五十二人居るといふから盛んなりといふべしである。警察の規定では百軒までは増加し得なこととなって居る。是等の二等妓館は、主として前門外八大胡同の附近に集って居る。石頭胡同、燕家胡同、王広福斜街、朱茅胡同、留守衞、火神廟来道、青風巷、小李紗帽胡同、博興胡同、王皮胡同、蔡家胡同が主なるもので、其他八大胡同の班子の附近にも散在して居る。「下処」も「茶室」と軒を列べ、肩摩轂撃八大胡同と変らぬ賑ひを呈して居る。班子と茶室下処との区別を知るには、門口に班子同様の型にて「何々二等茶室」の表札を掲げて居るから直ちに判明する。それと班子の如く、歌妓の名前を悉く掲示し、花探を用ひざるかわりに角燈に屋号と二等茶室の赤文字を表したものを掲げて居る。中には門を入った影壁に、赤文字の角燈を掲げた家もある。小班が花妓の表看板に皎々たるイルミネーシヨンを施し、頗る景気の好いのに反して茶室は何となく陰気な感じがする。