支那の売笑
六、茶室と下処

芸妓が女郎に下落する原因

班子の妓女が茶室に下落する主たる原囚は、年をとることである、清吟小班の妓女は第一要件として、年が若くなからねばならぬ、それは支那の婚姻制度に関係がある。私は京津日日新聞紙上(大正十二年七月六日)に於て発表した「支那の社会」の中に「蓄妾の原因」の一つとして次の如く書いにことがある

支那に於ける蓄妾の風が盛んになった最大原因として、結婚の弊害より来たことを見逃してはならぬ、支那では、多くの夫婦は、女が年上で男が年下である、富貴の家では、男が七八歳の時から、十歳も年上な嫁を定めて置く、而して十三四の時に結婚の礼を挙げさせることが往々ある。又貧家の娘を金で買取り、幼ない息子の配偶者とすることがある、之を「童養媳」といふ、男の子が二三歳の時に、十三四の娘を迎へると、娘は将来自分の夫となるべき幼児の子守役となる、乳房も嬲らすれば、襁褓も取換へる、そうして其成長の一日も早からんことを待って居る。男が漸く小学校に入学する頃には、女は成熟して了ふ、而も一室に起臥するのであるから女が年少の夫に対する態度は想像に難からぬ。男が十二三になった時には、女は二十三四の女盛りとなる、正式の婚礼は挙げられぬまでも、茲に非常手段の行はるることは、蓋し已むを得ない人情であらうと思ふ、於是腕白盛りの少年は、早熟を余儀なくせしめらるる、斯くて男が、血気盛りの青年となり、本当に夫婦の道を行はんとすれば、女は既に色香失せ衰へてしまって居る、そこで男か性欲の満足を他に求めやうとするのは当然のことであらうと思ふ。而も其相手方たるや、自分よりも 年少の美人を求むる、それは年長の女より永く弄されて来た被征服者の地位を転じて、征服者になって見たいと思ふのは自然の要求である。たとへ蓄妾しなくとも、之を花柳界に求むる、そこで支那の花柳界ては年少の妓女を最上とする、普通十四五より二十歳位までが一番持て囃さるる、二十四五位の妓女が、年を隠して居るが大概は廿歳を限度として第二流に低落する。第一流は「清吟小班」と称し、我国の「芸妓」に相当する置屋を根拠とし淫業を営み、第二流は「茶室」と称する純然たる「女郎屋」に下りそれが更に年をとると三流の「下処」に落されてしまふ、清吟小班に於ては、未開の花である「清倌」が重宝がられる、これは彼等は能ふだけ、年少の女を望むからである、斯くて年長の女より受けた奔弄を反動的に他に復讐しやうとするのであらうと思はれる。(下略)

これを観れば、妓女下落の原因が略了解さるると思ふ。

六、茶室と下処

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  3. 芸妓が女郎に下落する原因
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  7. 下処の所花地と其構造
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  9. 娼妓の鑑札
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