国家が売笑婦を保護する
千九百二十一年の九月、ゼネバに於ける国際連盟会議で、各国の間に締結された醜業婦保護の条約の大要を挙ぐれば、
一、本人の承諾を得たると否とを問はず、他人の情欲を満足せしむる為めに、醜業の目的を以て、未成年の婦女を誘拐したる者は罰す。
一、他人の情欲を満足せしむる為め、醜業の目的を以て、詐欺暴行、脅迫、権力の濫用、其他一切の強制手段を以て、成年の婦女を誘拐したる者は罰す。
一、条約国の法制が、前二条に定むる犯罪を防遏するに充分ならざるときは、右の犯罪を処罰する為めに必要なる措置を取り、又は各自の立法機関に提出すべきことを約す(以下略)
といふにある。此条約を見ると、前に述べた「功過格」の思想と異らぬのである。此条約には支那は加盟して居らぬが、支那一般の国民間には、斯うした標準に本き、道徳的解釈を下し、法の力が徹底せぬ時代に於ても、社会的に強い制裁が加へられて来たのである。支那としては国際連盟に加入せずとも、昔から醜業婦に対しては立派に保護を与へて居る。