支那の売笑
十、花柳語集

俗語の部

姑娘
妓女は俗に姑娘児と称する。普通支那語の姑娘は娘の意味。
一本、北班では十七八歳以上のものを「老表子」として一般に歓迎せられぬ、通称老妓又は大先生といふものもある。
清倌
未破瓜者にして雛妓半玉の謂である、小先生ともいふが北京では用ひぬ。
仮清倌
処女にあらずして清倌を冐称する者。
自巳混事
自前を称す又自各児混とも「贖身」ともいふ。南方では「自由花」といふ。
櫃上人
抱主のことである、支那書に「妓之典売与妓館日櫃上人」と説明してある。
掌班
小班子の営業主をいふ。又は「老板」ともいふ。
開窰子的
茶室下処即ち女郎屋の営業主をいふ。
大了
妓館の取締をする女のことである、茶室下処で別に大了を置かぬ家では業主が大了を兼ねる。
鴇母
又は「鴇子」といふ日本のやりてと同様である「七十鳥」といふ隠語がある。
跟媽
妓女が自ら雇った女僕である。
隨活
業主が雇ふ所の女を隨活的といふ。
走庁
妓館の男僕である。「茶壺」とか「亀奴」とかいふのは悪口で、通常夥計といふ、南班では「相幇」ともいふ。
毛火
夜明しで門番をする男僕のことである。一名「撈毛的」ともいふ。
師伝
妓女の歌を教授し客の前にて妓女の相方となって弾奏する男。
爪子
妓女の本夫南方では妍夫といふ、隠し男にも応用する。
又桿児
「妓所妍議者」とあるから女を保護する男で謂はば保証人である。日本でいふ且那の意味も含んで居る、妓女と関係を有するものと無いものと二種あるが、多くは秘密に相引きをする。
更夫
夜明しする帳場のことである。
厨役
炊事を司る男。
拉皮修絳的
妓女の周施業。
領家児的
抱への妓女をいふ、自巳混の反対。
窰子
小班、茶室、下処を総称していふ、即ち妓館の俗称。人によっては「老媽堂」といふものもある「土娼」「半捲門」「暗門子」等は密淫即ち私娼を指すのである。
南班
(前述の如し)
北班
(前述の如し)
逛窰子
素見して廻ることをいふ。「観胡同」又は「串胡同」或は「繞湾」ともいふ。
打茶囲
素見しの一種ではあるが妓館に小座して妓女を味ひお茶を呑んで遊ぶのをいふ。
招呼
馴染の妓女をいふ、又は「認識」ともいふ。
聴唱
前に述ベた如く、小班の妓女。遊客に対して演唄すること奏簧或は小曲等である。
住局
前に述ベた如く、妓館に妓女を抱いて泊り込むこと。又は「住下」ともいふ。
住窰子
住局と同様の意味ではあるが、主として茶室下処に於て行はるる言葉である。
借乾舖
妓女と同衾せず、一人で 泊り込むことをいふ。
住客
泊り込みの客をいふ。
生客
初会の客。
熟客
馴染だが久しく知って居るといふだけで、未だ情変無きものを指すやうである。
熱客
妓女が好いて居る客を指す。情交ある者と、無きものとがあるが、深馴染と解釈するのが適当だろう。
掛客
情交ある客。
怖客
自分の情交ある客を、朋輩の妓女と情交を結ばせたのを指す。
黽客
妓女から振られる客。
冰筒客
客を冷遇すること。
窰皮
老て花叢の間に出入する男を指す。
吃香辺
客に伴はれて女郎屋でお馳走になることいふ、隨行して遊ぶ意となる、南方では「辺務」又は「鑲辺」とも云ふ、俗に喝辺といふ。
見客
妓館に至り劈頭走庁又は大了に命して妓女を見ることである、南方では点名といふ。
挑人
「招呼」と同じ。
妓女と結識すること。俗に「交姑娘」といふ又「上」即ち「上某妓」とも謂ひ南方では「上盤子」といふ。
情交ある妓女が、或場合に客の要求を容れず情交を拒絶すること。一に「下盤子」ともいふ、冰筒は穿ち情交を拒絶するにあらざるも冷遇することで、下盤子とは意義に相違がある。
守塾子
妓女の月経ある時に、客が泊り込み房事を行はざることをいふ、塾子を守るとはよくも名附けたものである。
守病
妓女病気の時客が泊込むことで、前記の守塾子と同様である、看護をする意味となり、女は客の親切にほらさるるそうであるが、軈て全快後に持てる準備をするものなりとて笑はれもする。
趕早
客宿ること能はず早天に青楼を訪ふことである、前夜甲の妓館に住局して、その帰途他に趕早するものもある。
拉舗
客泊つて妓女と胡蝶の夢を 結ぶことをいふ。
開舗
拉舗に同じ、店を開くとはよくもつけたものである。
偸舗
泊込まずして短時間の間に要領を得ることで、順序を踏まずして舗を偸むより此称がある、偸舗に二種あり、一は時間の都合で規定の料金を支払すること、一は客と女と妥協して料金を支払せざるもの、之を単に「偸」ともいふ、近来斯うしたことが非常に流行するといふことである、支那の妓館のみならず、日本の旗亭に於ても、此種の要領が行はれて知らぬ妻君こそいい面の皮である。
睡乾舗
妓館に遊び打牌等をして遅くなつた場合等、客同士で泊込むことが即ち乾にして湿ざる也、前に述べた借乾舗に男を一人加へたものであるが、借乾舗は清官を愛し、未だ同衾出来ず客一人で寝む場合が多く、待てば海棠組である。
睡腿
前記と同様である。
開盤子
客打茶囲の際茶資を出すことをいふ。
開局帳
客が帳費を給するをいふ。
写眼
客が泊込みの時業主から宿費を求むること。
開方子
妓女が客に対し年節の祝儀や財物の代価をねたることをいふ。南方では「敲竹槓」ともいふ。
割靴子
友人の馴染の女を呼んで同衾することをいふ。
会靴子
同識の一妓を両客にて同室に聘ぶをいふ、これはよく有ることだ、河南の鄭州から洛陽一帯の妓は、普通宿屋に陣を搆へて客室で妓館同様売笑をやつて居るが、打茶囲の場合は先客があつても平気で、一室内に二人は愚か数人同時に一妓女を相手に会靴子をやる。会靴子は一名「靴兄弟」ともいふ。
粉眼児
男女が目挑眉語して遠方から互に意思を通ずることをいふ。色目を使ふことにも用ひられる。又「眼角伝神」ともいふ。「丈夫丈夫管人一丈、一丈以外其事不可問」(旦那様私一人でよろしいちやお座いませんか、他の女に色眼を使ふなんで嫌ですよ)といふ言葉がある。
叫条子
料理店より妓女を呼ぶこと、又は「叫局」といふ。
局票
右の呼出用紙。
出条子
客の招きに応じて妓女が出張することをいふ。
転条子
甲客の招いて居る女を乙客が呼ぶこと、日本でいふもらひをいふ。
借条子
友人の知つて居る妓女を借りて聘するをいふ。
荐条子
友人の照会で叫局をすることをいふ。
過班児
甲妓館内に居て乙妓館より妓女を呼ぶことをいふ。
上勁
妓と客と親近となる意味。詳しきことは各自聞いて見るべし自ら了解する。
上洋勁
上勁にしんにゆうをかけたものと心得べし、益々親近となるをいふ。
面子
所謂支那人の「面子」である、何にもかも面子にくつゝけるに妙を得て居る、前に述べた「你給我面子」(私の顔を立てて下さい)と花酒を要求するが如し。
蓋顔
全顔面の意。
慢待
妓館又は妓女が生客に対して謙遜せる時口中に説く所の二字である。「お粗末様」といふが如し。住局して翌朝客を送り出す時打茶囲して客が帰る時口を揃へて「慢待々々」といふ、此言葉は妓館のみ一般にも用ゆる。
窰魔
所謂「悪い虫」である、一度妓女と関係を結び度々遊びに来るが金の無いゴロツキ達である。
混婦
妓女が愈々税を納めて営業をする謂で、又「混事」ともいふ。
靠人
妓女と妍する謂である、一名「靠叉」といふ。
妍兎
芸者が俳優を客とするをいふ、日本にはよくあることであるが前述の如く支那では滅多に無い、元来が南方語である。
三套
妓が胡琴弾きの師伝、夥計、三弦弾きの師伝と情交することを総称していふ。
胡琴套
右の対弾胡琴をいふ。
茶壼套
同上対夥計。
弦士套
同上対弦子。
陪櫃
妓女と男の業主と情交することをいふ。
同◯
二客以上一妓館に在りて妓女を認識することをいふ。
転当局
妓館以外の房屋にて野合すること、又は人に婦女の媒介をすること「転子房」ともいふ。
包家児
金銭の貸借より生す保証人。
大牌子
玉代のこと。
小牌子
茶代のこと。
沐浴
妓女が身受けされて足技きをすること「一風呂浴びて来る」の意となる「替贖身」ともいふ。
避火図
「春画」のこと、支那では「春冊」又は「秘戯園」といふ、春冊に「半春」と「整春」の二種があるが説明は憚る。
模唖児
女の乳をいじることで猥褻な言葉となる。
龕児銭
日本でいふ玉代の意味となる。売婬料のことである。
零花児
馴染の客が妓女に与ふる小遣銭のことである。
単嫖
一人で女を買ふこと、厳格にいへば打茶囲は二人以上の場合に称する。
双賭
二人以上で女を買ふ目的にて打茶囲をする場合に用ゆる、その場合二人共同様の女に当るといふことはなく、何れか優劣がある、そこで運試みの賭けをするやうなものといふ意味から此言葉がある。
打連台
女郎屋に居連をすることをいふ。
卓面児
雛奴のこと。
坑面児
一本になつた中年の妓女をいふ。
老擧
年増の妓女を称する、南方語であるが、北京でも南班に用ひられて居る、又「擧大鼎」ともいふ。
吹斧頭
手段を以て客から金を強良すすss洋
跳槽
他に馴染をつくること。
◯(あし+山+明)客賬
勘定を踏倒すこと。
過陰天
天気の悪い客の少ない時を撰んで遊びに行く客。
給体己
おきまり以外に妓女に与ふる小遣銭。
迷湯
手練手管。
花柳界のみでなく一般に用ひらるる「やきもち」のことである、洒落て「三個礼拝六点鐘」ともいふ。その意味は三佃礼拝は三週間即ち二十一日で「昔」の字は廿一日である。六点鐘即ち六時は「酉」の刻である。これは支那人の「燈謎」から来た洒落である。
立嘴的
手を三角にして斯くいふ猥褻な言葉で女陰の蔭語。其他種々な言葉があるが、露骨な説明ができぬから此位にして置く。

十、花柳語集

  1. 文語の部(三十一種)
  2. 俗語の部(百五種)
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